水[H₂O]はなんで共有結合なの?化学を学ぶ高校生たちを惑わす結合の罠
定番の問題
「H₂O、NaCl、Feはイオン結合、共有結合、金属結合のどれにあたりますか?」
正解は
H₂O→共有結合
NaCl→イオン結合
Fe→金属結合
あなたはどっち?
Aくんはとても素直な子なので、その通りに覚えました。
でもBくんは、それぞれの結合の定義の曖昧さが気になってモヤモヤしています。
あなたはどちらでしたか?
Aくんと同じだったあなたは、この先を読む事で混乱させてしまう可能性があります。
そのまま勉強を先に進める事をおすすめします。
衝撃の事実
今回はBくんに向けてのお話です。
まずは結論から述べます。
衝撃ですね。
そうなんです。
これこそが混乱の元だったんです。
そもそも問題が成り立っていないのです。
価電子の共有
共有結合とは読んで字のごとく
原子同士がお互いの価電子を出し合い、それを共有してつくる結合
※価電子:原子内の最外殻の電子殻をまわっている電子のこと
となっています。
希ガス元素以外は持っている
原則、希ガス元素のみが価電子の存在しない閉殻状態です。
つまり、希ガス元素以外は原子の状態で価電子を持っている事になります。
ゆえに、異なる原子同士の結合には価電子の共有は不可避です。
このような考え方からも、異なる原子同士の結合はすべて共有結合だという事が出来ます。
問題として成立させてみる
では、冒頭の問題を正しく言い直してみましょう。
「H₂O、NaCl、Feのうち、イオン結合性の高い共有結合、共有結合性の高い共有結合、金属結合性の高い共有結合はどれにあたりますか?」
なんだかすっきりしないですね。
その為、化学の初級者に対して大人たちが、この3つの結合に線引きをしたのです。
つまり、手心を加えたという訳なのです。
共有結合の定義
・非金属元素同士の結合
・【電気陰性度:大】と【電気陰性度:大】の組み合わせ
・異なる原子の組み合わせで2原子の電気陰性度の差が小さい結合
(原子間の電気陰性度の差が0~2くらい)
イオン結合の定義
・陽イオンと陰イオンが静電気的な引力(クーロン力)によって結合
・【電気陰性度:小】と【電気陰性度:大】の組み合わせ
・電気陰性度の差が大きな原子間で形成される
(原子間の電気陰性度の差が2以上)
・個体では電気を通さないが、液体状態や水溶液で電気を通す。
例:塩化ナトリウム[NaCl]
[NaCl]は、融点の801℃以上の液体状態になれば電流を通す。
[NaCl]を水に溶かした水溶液(食塩水)も電流を通す。
※[NaCl]が水に溶けるとナトリウムイオン[Na⁺]と塩化物イオン[Cl⁻]に電離する。それぞれのイオンを伝って電気が流れるイメージ。
電気陰性度の差から考える
水[H₂O]
酸素[O]の電気陰性度:3.5
水素[H]の電気陰性度:2.1
電気陰性度の差=3.5-2.1=1.4
電気陰性度の差が2以下なので「共有結合」といえる。
塩化ナトリウム[NaCl]
塩素[Cl]の電気陰性度:3.1
ナトリウム[Na]の電気陰性度:0.9
電気陰性度の差=3.1ー0.9=2.2
電気陰性度の差が2以上なので「イオン結合」といえる。
ただし、これは理屈です。
電気陰性度の差から、「共有結合」と「イオン結合」の違いを見極めるためには各原子の電気陰性度をすべて覚える必要があります。
金属結合の定義
・金属元素同士の組み合わせ
・【電気陰性度:小】と【電気陰性度:小】の組み合わせ
まとめ
高校で習う化学では、理解しやすくする為に「共有結合」と「イオン結合」と「金属結合」を区別しています。しかし、それぞれの結合は明確に分類できるものではありません。 実際には、「共有結合性が大きい」とか「イオン結合性が大きい」といった表現をします。
結論
水[H₂O]は共有結合である。
ただし、酸素と水素の間の電気陰性度の差があり、電子の存在確率は酸素に偏っていますから、そこに「イオン結合性」が付加された共有結合ということになります。